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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)335号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、<証拠>によれば原告および被告江河は、いずれも宅地建物取引業者であること(被告江河については原告と同被告間では争いがない。)が認められる。

二、<証拠>を総合すれば、次の事実認めることができる。

1 原告は、昭和四五年八月末頃被告志賀の妻貞子(以下貞子という)から、豊中付近に所在し、部屋が五つ位あり、代金が一、一〇〇万円程度の土地付建物買入れのあつせんを委託され(この事実は原告、被告志賀間では争いがない。)これに応じて、同市夕日丘に所在する物件を、次いで約一週間後、同市上野坂所在の物件及び大成住宅の建設予定地を、原告自ら案内した。右の物件にき、いづれも売買は成立しなかつたが、貞子が原告に対し、「これからもよろしくお願いする」旨述べたので、原告は右言に心をよくし、また、かねがね新築の建売住宅の売買を仲介する場合、買手からは手数料を貰わず、競売住宅の売手たる業者から手数料を貰えばよいと考えていたことから、貞子に対し「新しい家を買う時は、手数料は(売手である)業者の方から貰うから、あなたからはとらない。」と明言した。

2 ところで、被告江河(三和建設)は、医師の沢某から、同人が新築した豊中市本町四丁目一四九番地(旧住居表示)所在のいわゆる競売住宅三戸を買い受け、これを転売するため、同年一〇月一〇日付の朝日新聞に、右物件を売却するむねのチラシを折り込んで、広告した(広告の事実は、原告と被告江河間では争いがない。)。ところで、被告江河は右物件を買受けたとはいうものの、実際には、沢に対し手付金を払つただけで、残金は右物件の買手より得た金で支払うこととしていたもので、実質的には物件の管理および売買の仲介を委託されていたにひとしかつたのであるが、広告には被告江河が右物件を建売するように表示した。そして、自己以外に他の業者が仲介するのを好まなかつたため、とくに、直接に顧客に売ることを強調して、右チラシには「直売」の文字が記入された。

3、ところが右チラシを見た原告は、即日、同人の妻幸子(以下幸子という)及び母親と共に、右物件の現場を訪ね、同所で、被告江河の従業員である菊留高行に会い、同人から名刺を貰つた。そして、幸子は、右菊留に対し、「適当なお客があり案内するのでよろしく。」と申し述べたが、それ以上にはかくべつの話し合いもなされなかつた。

4、翌一二日、右物件の現場へ、幸子が、貞子を案内した(この事実は原告と被告志賀の間では争いがない。)が、その場には被告江河の関係者は誰も居らず、貞子は、右三戸の物件を見て、返答は保留して引き揚げた。

5、二日程して、貞子は夫の被告志賀と相談の結果、被告江河に電話したところ、その従業員たる森某は、原告が右建売住宅の売買に関与していることなど知らず、「原告に対して仲介を依頼したことはない。」旨の返答をした。被告志賀としては、貞子の電話が契機となつてはじめて被告志賀に対する活動を開始し、同日、右森及び前記菊留の両名が被告志賀方を訪れ、右建売住宅は、顧客に直売するものであるむね強調して交渉した。

6 貞子は、それまで、原告は当然被告江河からも委託をうけて右物件を仲介したものと考えていたが、右森の説明を聞いて原告に対して不信感を抱くに至り、右の日の翌日に、直接被告江河から右物件のうちの一つである本件物件を右広告記載の価額そのままの金一、一八〇万円で買取る契約をし、即時内金一〇〇万円を支払つた。

7 その後、被告志賀は被告江河に右代金を分割して支払い、同年一二月七日、本件物件について被告志賀及び貞子名義の所有権保存登記がなされた。

8 原告は同月一四日、貞子からの電話で、本件物件を被告志賀が、被告江河から直接買つたことを知つた。

以上のとおり認められ、証人鳥飼幸子の証言および原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しがたい。

三、以上の事実よりすれば次のようにいえる。

1 被告志賀は、同人の妻貞子を代理人として、原告に対し、売買の仲介を委託したといえるが、原告は、被告志賀に対し、手数料はいらない旨明言していたのであるから、本件仲介行為は同被告に対しては無償とする約束がなされたと認められ被告志賀には、原告に対する手数料(報酬金)の支払義務がないと解すべきである。原告の、被告志賀との右約束は、被告江河から手数料を貰えることを条件にしていたとの主張は、これを認めるに足る確証もなく、かえつて右認定の原告の約束によれば、そのような条件は付されていなかつたといえる。

2(一) 被告江河が原告に対し、本件物件の売却について仲介の委託をしたとの主張は、前記のとおり、原告が被告江河の従業員に「客を案内する。」といつた程度であつて、それ以上に菊留が原告に対し仲介の委託をしたとまでいいがたく(証人鳥飼幸子の証言中これにそうような部分は、証人三木信夫の証言および原告本人尋問の結果の一部にてらして措信しがたい。)、また、菊留が被告江河からかかる仲介の委託をする権限を与えられていたことを認めるに足る証拠もないから、失当である。もつとも、原告本人尋問の結果中には、業者間では、一方の業者が右のような言葉をかけた程度でも相手方業者から仲介の委託を、うけたこととなるむねの供述があるか、業者間にこのような慣行があることを認めるに足る証拠もなく、これを措信しがたい。

(二) かりに被告江河が仲介の委託をしなくても、商慣習により原告に対する報酬支払義務があるとの原告の主張については、本件全証拠によつても、右のような商慣習の存在を認めることができない。

(三) また被告江河が原告に本件物件の売却につき仲介を委託していない場合であつても、なお商法五五〇条二項を類推して原告が被告江河に対し報酬を請求できるかどうかが問題となる。しかし、宅地建物取引業者は、いわゆる民事仲立人であつて、その媒介の対象となる取引は、投機的な商行為や通常の商作品売買とは異なり、非投機的な、しかも多分に一回かぎりの宅地建物の売買ないし貸借であつて、商事仲立人の媒介行為とはその性質が異なることなどを考慮すると、同規定は適用しがたい。もつとも原告は商人であるから、なお商法五一二条の適用が問題となる。しかし、本件では原告はもともと被告志賀から委託をうけてもつぱら同被告のため買入物件をさがしていたのである。その過程において、原告は、たまたま被告江河の広告を見つけて被告志賀の妻貞子を現場へ案内したが、そのさいも広告記載の内容を貞子に伝えたにすぎず、被告江河のために売買代金額の整整など実質的に仲介とみられる仕事はまつたくしていない(前記のとおり、売買価額は広告記載の価額そのままであつて、原告はその決定にまつたく関与していない。)。しかも、被告江河が売買の交渉をはじめたのは貞子の電話によつてであつて、原告が現場へ来たことは右交渉の契機とはなつていない。さらに、右広告は、顧客への「直売」を明記していたのであるから、原告も被告江河のため仲介できる余地のないことは理解していたと推認され、原告があえてこれに関与したのは、従来からの被告志賀の委託にこたえるためであつたと評価するほかない。要するに原告は、委託をうけない被告江河のためにも公平に媒介業務をしたとはいえないから、商法五一二条により同被告に対し報酬を請求することはできない。(原告が、客を案内しさえすれば、明確な約束がなくても報酬をうけられると考えていたとしても、早まつた判断というほかない。)

(四) さらに原告は、被告江河に対し、業者間の信義則上、報酬を請求できるむね主張するが、以上にみたところによれば、被告江河に報酬支払義務を認めなければ、信義則にそわないとまでは、とうてい解することはできず、原告の主張は失当である。 (岨野悌介)

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